建材/建機-新規事業
建機・建材、新工法の普及に向けて 「施主を動かす」には —ゼネコン営業だけでは限界がある理由
2026/5/7

「良い技術なのに、なぜ広がらないのか。」
建機メーカー、建材メーカー、工法の開発企業——こうした声は少なくないだろう。デモ施工では発注者もゼネコンも感心する。現場の所長が「次も使いたい」と言う。だが、次の現場では別の所長がゼロから検討をやり直す。1現場の採用が、同じゼネコンの他現場にすら波及しない。
建設テック企業のANDPADやPhotoructionですら、ゼネコンへの本格採用まで3〜5年の試行期間を要した。建設RXコンソーシアム(300社超)への参加など、業界横断のフォーラムを活用してようやく突破口を開いたケースが多い。ソフトウェアですらこれだ。物理的な機械や建材、工法であれば、なおさら時間がかかる。これは営業努力の問題ではなく、建設業界の意思決定構造そのものに原因がある。
本稿では、この構造的な壁を整理し、「ゼネコンの現場を1社ずつ口説く」以外のアプローチが存在することを示したい。なお、ここで述べる構造は、技術を自社で保有するメーカーだけでなく、技術を持つ企業と組んで市場を開拓する建設系商社にとっても同じだ。優れた技術に出会ったが広げ方がわからない——商社側のこの悩みも、根は同じ構造にある。
「現場で採用されたのに、なぜ広がらないのか」——プッシュ型営業の構造的限界
多くの建機・建材メーカーや工法開発企業が依存しているのは、ゼネコンの現場所長を個別に訪問し、技術の優位性を説明して採用を勝ち取る「プッシュ型営業」である。
この営業モデルには、構造的なボトルネックが潜んでいる。現場所長の裁量で採用が完結してしまうため、ゼネコン本社の技術部門が正式に認定するプロセスに乗らない。結果として、ある現場で採用された技術が、同じゼネコンの隣の現場にすら横展開されないという事態が起きる。営業体制が限られた企業にとって、「1現場=1営業成果」では市場浸透に途方もない時間がかかる。
さらに、国交省の新技術活用制度では、「発注者指定型」で採用された技術は工事成績評定の加点対象外とされている。加点されるのは「施工者提案型」——つまりゼネコン自身が選んで提案した場合のみだ。メーカーが現場所長に直接売り込んで採用された技術は、ゼネコンから見ると「言われたから使った」にすぎず、実績としてのインセンティブが働かない。この制度的なミスマッチが、プッシュ型営業の有効性をさらに削いでいる。
しかもこのアプローチには、もう一つの見えにくいリスクがある。試験施工で得たデータや施工ノウハウが、元請側に蓄積されていくことだ。中小企業庁の知財Gメン(取引Gメンと合わせ約300名体制、年間1万件超のヒアリング実施)への報告では、元請が試験施工の映像撮影や聞き取りを通じてノウハウを吸い上げ、後に類似工法を内製化した事例が建設業界から複数上がっている(中小企業庁『知的財産取引に関するガイドライン』事例3-7)。「現場に入れてもらえること」自体が目的化すると、技術的優位性を切り売りしてしまう構造がここにある。
では、プッシュ型以外に何があるのか。
「設計図書に書いてあるから使う」——ゼネコンが工法を選ぶ本当の理由
公共工事において、ゼネコンが工法を「自由に選んでいる」と考えるのは誤解だ。実際の意思決定は「施主(発注者)→建設コンサルタント(設計図書の作成)→ゼネコン(施工)」という流れで決まる。
鍵を握るのは設計図書、とりわけ特記仕様書への記載である。公共工事の設計図書は「共通仕様書(国交省制定)」と工事ごとに作成される「特記仕様書」で構成されるが、新工法の指定は主に特記仕様書でなされる。ここに「○○工法(または同等品)」と書かれていれば、ゼネコンは基本的にそれを使う。同等品への切り替えには同等性を証明する追加書類が求められるため、実務上は指定工法がそのまま採用されることが大半だ。逆に言えば、設計図書に名前が載っていない工法は、どれほど技術的に優れていても検討の俎上にすら上がらない。
つまり、建機・建材メーカーや工法開発企業、あるいはその技術を展開する商社が本当にアプローチすべき相手は「ゼネコンの現場所長」だけではない。「設計図書を書く人」——建設コンサルタントと、「設計図書に書かせる人」——発注者である。
建設コンサルタントの工法選定ロジック
では、建設コンサルタントは何を根拠に工法を選定するのか。大手コンサルタント(日本工営、パシフィックコンサルタンツ、オリエンタルコンサルタンツ等)は社内に技術審査委員会を設けており、ここを通過しなければ設計図書への記載は認められない。ある大手コンサルは「開発技術審査手続きを厳格に運用することで、新工法の完成度・信頼度を高め、現場への適用を適切に行う」という方針を公表しており、保有工法の定期的な技術レビューも実施している。
この審査で参照される情報源には明確な序列がある。最も強いのは国交省の技術基準や積算基準への掲載で、これは事実上の法的根拠として機能する。次にNETIS推奨技術・活用促進技術(国が「有用」と認定した権威付け)。建設技術審査証明(先端建設技術センター等による第三者性能保証)も同等に高い。土木学会・コンクリート工学会の論文は技術の信頼性裏付けに使われるが、それ単体で設計図書への記載につながることは少ない。NETIS登録(-A技術、つまり未評価の段階)は存在を認知させる効果はあるが、性能評価は未済だ。メーカーのカタログや営業説明は、採用前の情報収集段階で参照される程度にとどまる。
加えて見落とされがちなのが「前例の慣性」だ。建設コンサルタントが設計業務を受託する際、発注者から過去の設計成果が参考資料として貸与される。国交省の委託共通仕様書にも「最新の技術基準及び参考図書ならびに特記仕様書に基づいて業務を実施する」と規定されている。前回の設計で使われていない工法は、次の設計でも検討されにくい。このサイクルに一度入り込めるかどうかが、その後の市場浸透を決定的に左右する。
ここから導かれる戦略は明快だ。コンサルタントの審査委員会が「採用して問題ない」と判断できる材料を、制度的に揃えること。NETIS登録、建設技術審査証明、学会論文——この3点セットが、プル型営業の基盤となる。
「どこで実績を作るか」が戦略のすべて——発注者ヒエラルキーと加点パイプライン
プル型の基盤を整えたとして、次に問われるのは「どの発注者から攻めるか」の順序設計である。
公共工事の発注者には階層があり、上位の発注者で採用実績を作ると、下位の発注者がそれを参照して採用する「波及構造」が存在する。国交省直轄工事での採用実績は、NETISの活用効果調査票として蓄積され、自治体の担当者がNETIS検索で「国交省で実績あり」を確認する。建設コンサルタントも、国交省発注の設計で使った工法を自治体発注の設計に持ち込む。実績は上から下へ流れるのだ。
しかし、攻めるべきは「縦」の行政階層だけではない。各階層の中に「施主(発注者)」「建設コンサルタント」「ゼネコン本社技術部門」「現場所長」という「横」の意思決定レイヤーが存在する。以下のマトリクスで整理すると、自社がいまどのセルで戦っているのかが明確になるはずだ。
工法採用の意思決定マトリクス(縦:発注者階層 × 横:意思決定レイヤー)
施主(発注者) | 建設コンサル | ゼネコン本社技術部門 | 現場所長 | |
|---|---|---|---|---|
NEXCO・首都高速等の高速道路会社 | 各社固有の標準仕様書が存在。ここに記載されれば管内全線区に波及する最強のレバー | 事業者固有の設計要領を策定する少数のコンサルがゲートキーパー | 施工パッケージ型の場合、技術部門の認定が前提 | 認定済み技術の中から選択する裁量 |
国交省直轄 | 共通仕様書・設計要領への反映が最終目標。整備局の試行制度(試行申請型・フィールド提供型)が入口 | 特記仕様書に工法を記載する実務的な決定権を持つ | 総合評価方式の技術提案で加点される構造。令和6年度より事後評価未実施技術(-A)も加点対象に | 施工者提案型で採用すれば工事成績評定に最大2点(実加点0.8点) |
都道府県 | 技術管理課が窓口。神奈川県のように「新技術発表会」を毎年開催する県も | 国交省直轄での採用実績を参照して設計に組み込む | 県独自の認定制度がある場合も | 国交省実績があれば採用ハードルが下がる |
市町村 | 技術職員の約5割が5人以下(国交省調査)。自力評価は困難でNETIS評価が判断根拠に | 県発注設計の前例を踏襲する傾向が強い | 多くの場合、独立した技術部門を持たない | 前例と上位発注者の実績に依存 |
多くのメーカーや商社が営業リソースを投じているのは、このマトリクスの「現場所長」列——つまり右端のセルである。しかし、工法の採用を構造的に決めているのは左側の2列(施主と建設コンサル)だ。右端で何度勝っても、左側に乗らなければ市場は広がらない。
WJ工法に見る「波及構造」の実際
このマトリクスを戦略的に活用している好例が、ウォータージェット(WJ)工法の展開だ。WJはつりはNEXCO東日本の標準仕様書に記載され、同社管内では100%採用されている。名古屋高速道路公社も床版上面補修要領でWJ工と4.5kg以下電動チッパの併用を標準化した。しかし、国交省直轄では橋梁上部工に限定され、自治体ではほぼ未採用というのが現状である。
この階層間ギャップを突破するために、2024年4月にファルヒ東日本施工協会(20社加盟)が設立された。同協会が取った手段は明確だ。(1)基本歩掛(案)の整備——積算体系に工法が掲載されなければ発注者は予算を組めない、(2)標準施工単価の統一——地域差をなくして見積比較を容易にする、(3)施工計画書の協会標準化——施工者の書類作成負担を軽減する。いずれも個社では不可能な作業であり、業界団体としての組織的な取り組みが不可欠だ。
土木学会モニターによる証言でも「新工法を開発しても、公共工事では採用されにくい。入札では1社しかできない技術は公共性から採用されにくく、実績がなければ採用されない」という「実績なし→採用なし」のジレンマが指摘されている。この循環を断ち切るのが、制度化戦略である。
NETISの「加点パイプライン」——制度を味方につける順序設計
マトリクスを突破するための制度的な武器が、NETISの加点パイプラインである。具体的には以下の段階を踏む。
第1段階:NETIS登録。 申請費用は無料、期間は平均4〜6ヶ月。登録番号の末尾「-A」(未評価技術)として掲載が開始される。掲載期間は登録翌年度から10年間。
第2段階:直轄工事での活用実績の蓄積。 施工者提案型で5回以上活用されると事後評価の対象になる。整備局の「試行申請型」「フィールド提供型」「現場ニーズ・技術シーズのマッチング」(中国地方整備局等)への申し込みで、直轄工事での実証機会を得ることができる。
第3段階:事後評価の取得。 新技術活用評価会議(産官学構成、各整備局に設置。近畿地方整備局では年3回、1回10技術程度)での評価を経て、「-VR」(継続調査対象)または「-VE」(継続調査不要)に昇格する。評価は9地整で工種ごとに担当を分けて実施される。
第4段階:推奨技術・活用促進技術への選定。 掲載期間が10年→15年に延長され、NETISトップページに掲載される。VE技術の場合、施工者側の活用効果調査票・実施報告書の提出が不要になる——つまり、書類負担が減ることで、ゼネコンが積極的にその技術を選ぶインセンティブ構造が制度的に生まれる。令和6年度には、古河機械金属の鋼製支保工建込ロボット「ROBO ARCH」やロックボルト施工機「ボルティンガー」が推奨技術に選定されている。コンクリート切削領域でも、WJはつり処理工法「ジェットマスターJMK-2100」が推奨技術に選定された。
令和6年4月公告分からは、工事成績評定への加点ルールも見直された。施工者提案型で新技術を活用した場合、主任技術評価官の裁量で最大2点(実加点0.8点)が加算される。さらに、従来は加点対象外だった事後評価未実施技術(-A)も、「相当程度の効果あり」と評価されれば2点の加点対象となった。これにより、NETIS登録直後の技術であっても、ゼネコン側にとって「使う理由」が明確になった。
自治体への波及——技術職員不足が追い風になる逆説
国交省のアンケート調査(対象951団体)によれば、新技術導入の障壁として「発注に係る知識を有する技術者不足」が約41%と最多だった。市区町村の技術系職員数は「5人以下」が約5割を占める。この技術者不足は、一見すると新技術の浸透を阻む壁に見える。だが実態は逆だ。自力で技術評価を行う余力がないからこそ、国交省が「有用」と認めたNETIS評価が、自治体にとっての実質的な採用判断基準になる。上位発注者での実績がそのまま「お墨付き」として機能するのである。
自治体側にも窓口はある。神奈川県県土整備局の「新技術発表会」はNETIS登録を要件とせず、従来技術と比べ効果が高い技術であれば応募でき、県職員・市町村職員・建設業関係者に直接説明できる場だ。国交省の「インフラメンテナンス分野のハンズオン支援事業」(令和5年度、各ブロック1件・計10件程度選定)や「現場試行モデル事業」(平成31年度開始)も、NETIS登録前でも活用できる制度として存在する。加点パイプラインを進めながら、こうした制度を並行活用することで、波及の速度を上げることができる。
Opinion:「制度に乗せる順序」が市場浸透を決める
ここまで述べてきたことを一言でまとめるなら、こうなる。技術の優劣ではなく、「制度に乗せる順序」が市場浸透の速度を決める。
第1次国土強靱化実施中期計画(2026〜2030年度、約20兆円強。うちライフラインの強靱化に約10.6兆円)とi-Construction 2.0(2040年度までに省人化3割・生産性1.5倍)が同時進行する今、機械化施工と予防保全型メンテナンスへの追い風はかつてなく強い。2040年までに道路橋の75%が建設後50年を超えるという事実が、コンクリート補修・切削・はつりといった領域を構造的な成長市場に変えつつある。
だが、この風を受けるためには、技術を「制度の言語」に翻訳する必要がある。NETIS登録、活用効果調査票、建設技術審査証明、歩掛整備——これらは手続きではなく、市場参入の設計図そのものだ。そしてこの設計は、メーカー単独で完結するものではない。施工協会の組成、商社との戦略的提携、建設コンサルタントへの技術情報の体系的な提供——制度と市場の両面から攻める「プレイヤーの連合」が、プル型営業を実装する上での現実的な解となる。
「施主を動かす」とは、営業力の問題ではない。設計構造と制度構造を味方につけるための、戦略設計の問題である。
<主要参考文献>
国土交通省「公共工事における新技術活用システム実施要領」(令和6年4月改定)
国土交通省「NETIS(新技術情報提供システム)」公式サイト
国土交通省「工事成績評定要領」——新技術活用における加点方式(令和6年度見直し)
関東地方整備局「令和8年度 総合評価方式の方針について」
国土交通省「地方自治体における新技術導入に関するアンケート調査」(対象951団体)
国土交通省「地方自治体に向けた維持管理への新技術導入の手引き(案)」
国土交通省「インフラメンテナンス分野の新技術導入ハンズオン支援事業」(令和5年度)
国土交通省「現場試行モデル事業」(平成31年度開始)
国土交通省「第1次国土強靱化実施中期計画」(2025年6月閣議決定)——2026〜2030年度、約20兆円強
国土交通省「i-Construction 2.0」(2024年4月策定)
国土交通省「令和6年度 国土交通大臣表彰(活用推奨技術)」——古河機械金属「ROBO ARCH」「ボルティンガー」等
神奈川県県土整備局「新技術発表会」開催要領
中国地方整備局「現場ニーズ・技術シーズのマッチング」実施要領
中小企業庁「知的財産取引に関するガイドライン」(2024年10月改正)——事例3-7(建設業における知財吸い上げ事例)
公正取引委員会・経済産業省「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」(2022年改正)
ファルヒ東日本施工協会——2024年4月設立・20社加盟、WJはつり工法の標準化推進
品確法(公共工事の品質確保の促進に関する法律)——技術力ある企業と地域企業との連携による技術普及規定
東洋経済オンライン・日経クロステック——建設テックスタートアップのゼネコン採用プロセスに関する各社取材記事
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