住宅-業界構造
リフォーム2026:イラン情勢下で"戻る変化・戻らない変化"を見極め、残り8か月をどう動くか
2026/4/22

2026年春、住宅リフォーム市場には、中東情勢、資材価格、住宅ローン金利、補助金制度の4つの変化が同時に起きている。これらは相互に連動しつつ、性質はそれぞれ異なる。ある部分は数か月で沈静化する「一時的な波」であり、ある部分は今回を契機に「構造として定着する」。一時的な波であれば嵐が過ぎるのを待てばよいが、構造変化は待っても戻らない。この切り分けができないまま動くと、一時的な波には過剰反応し、構造変化には備え損ねる。
本稿では、2026年2〜4月に確認できた一次情報を起点に、需要・都市と地方・変化の性質・生き残った先の世界——の順で整理する。直近の打ち手と中期の戦略は、その読み方の違いの上に組み立てる。
1. いま何が起きているか——2026年2〜4月の実像
直近の環境変化は、「中東発の外部ショック」「国内の資材・設備の目詰まり」「マクロ環境の重荷」「補助金の条件変更」の4層で同時進行している。
第1層:ホルムズ海峡を巡る情勢は決着していない。 2026年2月28日の米国・イスラエルによるイラン攻撃を起点に、3月1日からホルムズ海峡の通航量は激減した。4月8日に米イラン間で2週間の停戦合意、直後のイスラエルによるレバノン攻撃で崩壊、4月12日にはトランプ大統領が「米海軍があらゆる船舶の海峡出入りを阻止する」と逆封鎖措置を表明。4月17日にはイラン側が通航の完全開放を宣言してタンカーが動き始めたが、4月19日に米海軍がイラン船を拿捕し、翌20日には原油価格(ブレント)が5%超上昇して1バレル95ドルを超えた。日本の原油中東依存度は約94%、ホルムズ海峡経由が約9割であり、情勢の着地は依然として見通せていない。
第2層:国内の資材・設備供給は"量は足りるが、流通が偏る"状態。 資源エネルギー庁は2026年1月末時点で約8か月分の石油備蓄があり、4月に前年実績比で2割以上、5月には過半の代替調達に目処がついたと公表している。ナフサ調達先は中東4割・国産4割・その他2割、ポリエチレン等の川下在庫は約2か月分。経済産業省も「日本全体として必要となる量は確保している」との立場だ。しかし現場では、油化系資材を中心に局所的な目詰まりが生じている。主要メーカー公式発表を時系列で整理すると次のとおりだ。
時期 | メーカー/当局 | 公式発表の内容 |
|---|---|---|
3月16日 | 信越化学工業 | 塩化ビニル樹脂の値上げ(4月1日納入分から+30円/kg以上、約2割) |
3月19日 | 日本ペイント | シンナー全般75%値上げ開始 |
3月24日 | 田島ルーフィング | アジャストU・E等 受注停止(第1弾) |
3月31日 | 旭化成建材 | 「ネオマフォーム」「ネオマゼウス」の供給遅れを発表 |
4月1日 | カネカ | 押出ポリスチレンフォーム40%値上げ |
4月1日 | 関西ペイント | 塗料製品30〜50%値上げ |
4月2日 | 赤澤経産相 | 「中東情勢に伴う重要物資の安定的な供給確保のためのタスクフォース」第1回開催 |
4月6日 | 共英製鋼 | 鉄筋など鋼材の新規販売契約を当面見合わせ |
4月9日 | 田島ルーフィング | アスファルトルーフィング・防水関連材料 受注一時停止 |
4月10日 | LIXIL | 供給条件調整の可能性を公表(受注停止ではない) |
4月10日 | 田島ルーフィング | 全製品の新規受注を全面停止(国内シェア1位) |
4月13日 | TOTO | システムバス・ユニットバスの新規受注を一時見合わせ |
4月13日 | タカラスタンダード | 長期化時の納期・数量・価格への影響の可能性を公表 |
4月14日 | クリナップ | システムバス新規受注停止(再開未定) |
4月14日 | パナソニックHS | バス・トイレ関連の納期回答停止 |
4月14日 | 日新工業 | アスファルトルーフィング・防水材料 受注停止 |
4月14日 | 旭化成建材 | ネオマフォーム等に約20%の特別調整金(5月7日出荷分から) |
4月15日 | TOTO | 第3信で「4月20日から段階的に新規受注を再開」と公表 |
4月17日 | 赤澤経産相 | 塗料用シンナーとTOTO含む一部住宅設備で「供給見通しのめどが立った」 |
4月 | 信越化学工業 | シリコーン製品を国内外で10%以上値上げと発表(中東情勢による原料高) |
4月20日 | 信越化学工業 | 塩化ビニル樹脂の再値上げ(5月11日納入分から+30円/kg以上、累計約4割) |
既存の報道には「TOTOとLIXILが同時に受注停止」「再開未定」と断定したものも流通しているが、一次情報ではLIXILは「調整の可能性」の公表にとどまり、TOTOは4月20日から段階的再開に動いている。一方で、クリナップやパナソニックHS、田島ルーフィング、オート化学工業(シーリング材)は個別に納期未定が続く。領域ごとに温度差のあるモザイク状態が現在地だ。
第3層:資材価格の水準は元から高い。 建設物価調査会の建設資材物価指数(建設総合・東京、2015年平均=100)は2026年3月分で143.3、前月比+0.1%上昇。土木部門は28か月連続プラスだ。住宅直結の木造住宅建築費指数は149.3で前年同月比+5.9%。経済調査会のリフォーム工事費指数は2025年時点で154.6(2009年=100)に達し、木造フルリフォームの平均費用は790万円(2009年)から1,220万円まで約1.5倍に上がっている。中東要因は、すでに高い水準の上に重なる形で効いている。
とりわけ象徴的なのが、国内最大の塩ビ樹脂メーカーである信越化学工業の動きだ。同社は3月16日に塩化ビニル樹脂を1kg当たり30円以上(約2割)値上げすると発表し4月1日から適用、その約1か月後の4月20日には5月11日納入分からさらに30円以上の追加値上げを発表した。2回の合計で出荷価格ベース約4割の値上げとなる。同社は「企業努力の限界をはるかに超える状況が続いている」と公表文で説明している。塩ビは上下水道配管、窓枠、電線被覆などリフォーム現場に直結する素材で、同社の国内シェアは約3割。加えて同社はシリコーン製品も4月に国内外で10%以上値上げすると発表しており、ナフサ由来素材の価格が短期間で二段階以上動く局面に入っている。
第4層:住宅ローン金利の上昇と、補助金単価の縮小が重なっている。 変動金利は、日銀の政策金利が2025年12月に0.75%に引き上げられた影響で、2026年4月からメガバンク店頭金利が3.125%に上昇。主要行の新規借入変動金利は0.6〜0.95%台で、15年ぶりに1%の壁が視界に入った。既存借入者にも多くは2026年7月返済分から反映される。一方、住宅省エネ2026キャンペーンの補助金は、先進的窓リノベ2026事業が予算1,125億円・最大100万円/戸となり、2025年度の1,350億円・最大200万円/戸から単価・予算の両方で縮小した。2025年度が予算上限に達して早期終了した事実を踏まえると、2026年度も後半には予算枠の逼迫リスクがある。
2. リフォーム需要の構造——データで見る実態
市場規模は"縮小"ではなく"横ばい"で、構造が変わっている。 矢野経済研究所の推計では、2024年の住宅リフォーム市場規模は前年比0.5%減の7兆3,470億円。2025年も前年比0.7%減の7.3兆円で推移する見込みだ。内訳では「増改築に関わる費用」が前年比3.5%減、「設備修繕・維持関連費用」は0.4%増。工事件数の減少を単価上昇が補う構造に入っている。
実施費用の平均は400万円超、予算超過が常態。 住宅リフォーム推進協議会の「2024年度住宅リフォームに関する消費者実態調査」(令和7年2月公表、有効回答6万3千件超)によると、リフォーム実施者の検討時平均予算は290.7万円、実際にかかった平均費用は434.2万円。予算超過の理由は「予定よりリフォーム箇所が増えた」42.2%、「設備を当初よりグレードアップした」39.6%。案件は着地時に膨らむ傾向が常態化している。
実施箇所は水回りが圧倒的上位。 同調査で実施者のリフォーム箇所上位は水回り(トイレ・洗面・浴室・キッチン)で、検討のきっかけも「設備や構造の修繕」が実施者53.2%・検討者53.4%で最多。いまの市場は、水回りの部分改修・段階改修が主戦場である。
事業者選定で重視されているのは"価格の安さ"ではない。 実施者の事業者選定重視点(複数回答、国交省配布版資料)は——担当者の対応・人柄44.6%、工事の質・技術32.2%、工事価格の透明さ・明朗さ29.3%。「工事価格が安いこと」は上位には入らない。検討者が予算以外で重視するのは「省エネ性の向上」27.5%が最上位。顧客の支払意思は"説明と信頼と省エネ性"に向かっている。
3. 都市と地方で、構造が違う
資材高と金利の重荷は全国共通だが、需要の構造そのものが都市部と地方で異なる。これは中東情勢とは独立した、元から存在する構造差だ。
市場の総額では都市部が中心。 公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「2023年都道府県別住宅リフォーム市場規模(狭義)」では、東京都8,705億円が1位、以下、神奈川5,290億円、大阪5,289億円、埼玉4,151億円、愛知3,827億円。上位5都府県で全体の約4割を占める。
しかし一人当たりで見ると、地方が上位に並ぶ。 同センターデータを人口で割った一人当たり広義リフォーム市場規模では、富山・新潟・鳥取・長野・山口・四国・山陰などの地方圏が上位に入る。共通するのは、戸建て比率と持ち家比率の高さ、築年数の進んだ住宅の多さ、積雪・寒冷による屋根・外装・断熱の定期的な改修需要である。地方は"人口×平均単価"ではなく"高い単位支出×定期需要"で市場を形づくっている。
持ち家率の5年間動向にも地域差がある。 2023年住宅・土地統計調査(総務省)の全国持ち家率は60.9%。25年前との比較で沖縄は55.3%→42.6%(-12.7pt)、東北・四国・山陰の人口減少地域で大きく下がる一方、東京・神奈川・大阪・兵庫では3pt以上増加している。地方では"持ち家を維持するコア層"が薄くなり、都市部では逆に厚くなっている。
世代別の投資行動にも違いがある。 住宅リフォーム推進協議会の調査では、20〜40代の実施者の平均費用は475.1万円で、50代以上の358.4万円を上回る。若年層は中古住宅購入と同時に大きく手を入れる動きが強く、借入と補助金の併用でこれを成立させている。この層は都市部に厚く、地方では薄い。
電化親和性の差も構造的に存在する。 後述する「供給確度の高い領域」の代表が給湯・電化である。地方、とくに寒冷地では、エコキュート・ヒートポンプ暖房・IHへの置き換え需要が相対的に大きく、都市ガス普及率の低い地域では電化親和性は構造的に高い。都市部では都市ガスの利便性が残り、電化一辺倒にはなりにくい。
都市と地方は、同じ「資材不安と高金利」のなかで異なる顧客基盤と需要構造を持つ。同じ商品・同じ売り方で両市場に臨めば、どちらも取り損ねる。
4. 一時的か、構造的か——変化の性質を切り分ける
2026年春に起きている個々の事象を「一時的な波」と「構造的に定着する変化」に分けてみる。この切り分けが、何に短期対応し、何に中期で備えるかを決める。
A. 数か月〜1年で沈静化する可能性が高い(一時的)
特定メーカーの受注見合わせ。 TOTOは4月13日の見合わせから1週間で段階的再開へ動き、4月17日には経産相が「供給見通しのめどが立った」と公表した。クリナップやパナソニックHSなども、原材料の川中目詰まりが解消されれば順次復帰が見込まれる。「どのメーカーの、どの型番が、いつ入るか」という納期問題は、数か月単位で動く。
原油価格の瞬間的な急騰。 4月20日のブレント95ドル超は、米海軍によるイラン船拿捕という個別事象への反応だ。情勢の緊張局面では100ドル近辺まで振れるが、停戦期待局面では90ドル前後まで戻る。中東情勢そのものの変動に連動する瞬間値は、基本的には波である。
ナフサ由来の一時的な欠品。 シンナー、ウレタン防水材、特定の接着剤など、在庫が2〜3週間分で回っていた品目の瞬間的な品薄は、非中東調達の拡大(5月には過半の代替調達目処)と国内精製能力の活用で、時間とともに緩和する方向にある。
B. 今回を契機に定着する可能性が高い(構造的)
ここが重要な論点である。以下の要素は、仮に中東情勢が数か月で沈静化しても、元には戻らない。
資材価格水準の「高い新常態」への定着。 建築部門の資材物価指数は2015年から4〜5割上昇、土木は28か月連続プラス、リフォーム工事費指数は2009年からの約15年で1.5倍になっている。今回の中東要因で乗った値上げの多くは、メーカー側が「外部環境が落ち着いても恒久的に価格水準を引き上げる」形で定着させる。象徴的なのが信越化学の塩ビ樹脂で、3月16日発表の約2割値上げ(4月適用)から1か月後に再度+30円/kg以上の値上げを発表し、累計約4割の改定となった。二段階の短期連続値上げは、単発のショックではなく水準そのものを上方に移す動きである。過去のウッドショック・アイアンショックの経験でも、高値で上がった水準は戻らない。「資材は元の値段に戻る」という前提で事業計画を組むのは、もう合理的でない。
メーカー側のアロケーション思想の定着。 今回の局面でメーカー各社が採った配分方針——「商売の信義を守って継続取引してくれていた先に優先」「価格交渉に応じなかった先には積極的に売らない」「新参者・与信が厳しいところには回さない」——は、短期的な緊急対応ではなく、サプライチェーン逼迫時の標準動作として定着する可能性が高い。仕入先との長期関係が、次の危機での生存を左右する。
調達構造の多様化(脱・中東依存の着実な進行)。 政府は2026年4月から米国・南米・中央アジアなどから非中東産ナフサの緊急調達を拡大、4月には平時の倍増となる約90万キロリットルを確保した。経産省の「中東情勢に伴う重要物資の安定的な供給確保のためのタスクフォース」は、石油化学原料や医療物資、住宅設備を含めた供給網総点検に入っている。経済安全保障推進法の特定重要物資に石油由来化学品を加える議論も動き始めている。中東依存率は漸進的に下がる方向で、国・メーカー双方が舵を切っている。
toC住宅向けからtoB向けへの供給力シフト。 帝国データバンクの分析では、商流がtoCに近いほど価格転嫁率が低く、国交省データでも売上に占める住宅比率が高いほど利益率は下がる傾向にある。2025年度の建設業倒産件数は前年度比5%増、塗装工事業の倒産件数は23年ぶりの高水準(東京商工リサーチ)。工務店の新築→改修シフト、足場業者のマンション→公共工事への人員再配分、エアコン工事業者の家電量販店からの撤退など、職人・下請のリソースは「町場(toC)」から「野丁場(toB)」へ静かに流出している。この動きは、国の公共工事予算が増加を続ける限り止まらない。
新設住宅市場の縮小トレンド。 2025年の新設住宅着工戸数は74万667戸(前年比-6.5%)で、1963年以来62年ぶりの低水準。2026年2月速報でも前年同月比-4.9%、分譲マンションに至っては-8.8%となっている(国土交通省)。新築縮小は、リフォーム市場にとっては中期的な需要の底支えになる一方、住宅事業全体の縮小は職人・事業者の供給力減少も招く。
事業者選定基準の軸の移動。 2024年度調査で上位に来ていた「担当者の対応」「工事の質」「価格透明性」は、不確実性が高まるほど重みを増す。「いつ入るか分からない、いくらになるか分からない」環境下では、"説明できる会社"と"説明できない会社"の格差が、ブランド以上に効いてくる。この傾向は、中東情勢の着地後も定着する。
住宅ローン金利の上昇局面。 日銀は2024年3月にマイナス金利を解除、2025年12月に政策金利を0.75%に引き上げた。ESPフォーキャスト調査(2025年8月)では2026年12月末までに約1.0%への上昇が見込まれている。"0金利時代"は終わっており、これは中東情勢とは独立に続く。
補助金単価の平準化・縮小。 窓リノベの最大補助は2025年度200万円/戸から2026年度100万円/戸へ。政府の2050年カーボンニュートラル目標と整合して制度自体は続くが、単価は長期的に下がる方向にある。"大型補助で顧客の実質負担を劇的に下げる"という営業は、今年が天井である可能性が高い。
「周辺資材ボトルネック」が工事リスクの主戦場になる。 今回の局面で可視化されたのは、工事は中心製品(窓・給湯器・便器・浴槽)ではなく最も入手難度の高い副資材に律速されるという構造だ。塩ビ管・継手・接着剤・シーリング材・防水材といった、金額は小さいが工程上は不可欠な品目が、メーカー側で優先度を下げられやすい。2026年4月には、防水材シェア1位の田島ルーフィングが全製品の新規受注を停止、オート化学工業がシーリング材の受注を一時停止するなど、工程そのものを止め得る副資材の逼迫が顕在化した。公共工事では承認メーカー縛りがあり、代替品への変更は審査待ちで現場が止まる。この「周辺資材律速」の構造は、中東情勢の着地後も繰り返し顕在化する——副資材管理の巧拙が事業者の生存を分ける時代が定着する。
C. どちらとも言い難い(見極めが必要)
中東依存度の低下スピード(構造的に下がっていくのは確実だが、年率で何%下がるかは情勢次第)、代替素材(グラスウール、セルロースファイバー、木質系)への移行ペース、石油備蓄法や特定重要物資制度の見直しの進展——これらは方向としては構造変化だが、スピードは政策と情勢に依存する。
5. 生き残った先に待つ世界——2028〜2030年の市場像
以上の切り分けから、今回の局面を乗り越えた先に見える市場像は次のように整理できる。
市場規模は7兆円台で横ばい、構造は質的に変化する。 矢野経済研究所の長期予測でも、2030年に向けて市場規模は横ばい〜緩やかな減少。内訳では「増改築」より「設備修繕・維持」の比重が増し、水回りを中心とする部分・段階改修が主流になる。"全体として縮む"のではなく、"性格が変わる"。
事業者の二極化と緩やかな淘汰が進む。 建設業許可ベースで全国9万5千社超が競う市場で、「供給できる事業者」と「できない事業者」の差が明確化する。仕入先との情報連携、補助金設計、見積の透明化、契約条件(スライド条項)の整備——これらを営業プロセスに組み込めた会社が、不確実性の高い環境下での顧客選択を得る。組み込めない会社は、倒産・撤退・事業領域の転換を迫られる。
補助金の取り込み能力が競争力の核になる。 省エネ基準適合義務化(2025年4月〜)、2050年カーボンニュートラル、住宅ストック老化への対応といった政策軸は変わらず、補助金制度は続く。ただし単価は縮小方向で、「単価の絶対額で顧客の実質負担を下げる」から「制度を組み合わせて最適設計する」へと営業スキルの質が変わる。2026年度の住宅省エネ2026キャンペーンは4事業連携の入口であり、この設計能力が2030年に向けて蓄積されるかどうかが問われる。
顧客の購買行動は「部分最適の定期化」へ。 大型一括フルリフォームは、中東情勢が落ち着いても"標準的な買い方"には戻らない。住宅リフォーム推進協議会調査が示す費用帯分布(戸建てで500万円未満が約7割)は、今後さらに部分・段階改修にシフトする。これは需要側にとってもリスク分散になり、事業者側には"繰り返し接点を持てる顧客基盤"の価値を高める。
素材構成の緩やかな変化。 今回の局面が可視化したのは、特定原料に限らず、中東依存度の高い素材全般(ナフサ由来のプラスチック・塗料・断熱材・塩ビ、アルミなど)のリスクだ。中期的には、代替調達の多様化と、バイオマス由来プラスチック・セルロースファイバー・木質系・ロックウール・樹脂サッシなど調達リスクの低い建材へのシフトが進む。設計段階で依存リスクを分散した仕様を標準化できる事業者は、次回の供給危機での体力を保ちやすい。
Opinion
【直近】2026年内〜2027年前半の打ち手
示唆1:供給確度で領域ポートフォリオを組み直す。ただし「主力製品が入れば動ける」とは限らない。 売れる領域・売れない領域を「顧客ニーズ」ではなく「供給側の制約」で分類し直す必要がある。ただし重要な留保がある——いま現場で起きているのは、中心製品(窓・給湯器・便器・浴槽)の供給問題だけではない。周辺資材・副資材のボトルネックが、工事そのものを止めつつある。塩ビ管・継手・接着剤・シーリング材・防水材といった、金額は小さいが工程上は不可欠な資材が、メーカー側の調整の優先順位が下げられやすい。実際、2026年4月には田島ルーフィングが防水材・屋根下葺材の全製品で新規受注を停止(国内シェア1位)、オート化学工業がシーリング材の受注を一時停止、信越化学の塩ビ樹脂は1か月で2回の値上げ(累計約4割)に踏み切った。公共工事では承認メーカー縛りがあり、代替品への変更は審査待ちで現場が止まる。工事は最も入手難度の高い資材に律速される——99の資材が揃っても、1つ欠ければ着工できない。「材料さえあれば動ける」状況で手待ちが出る時間は、施主の不満だけでなく、職人の離散、次案件への影響にまで波及する(1現場が空けば、一人親方や一次下請の翌月売上は消える)。
領域分類は、「中心製品の供給確度」と「周辺資材の確保状況」を別軸で持つ必要がある。以下は中心製品ベースの目安だが、各案件では副資材の在庫・納期の確認が不可欠だ。
領域 | 中心製品の供給確度 | 周辺資材・副資材リスク | 補助金活用 | 戦略位置づけ |
|---|---|---|---|---|
窓(断熱窓・内窓) | 高い | 接着剤・シーリング材 | 非常に強い(窓リノベ) | 主力:補助金前提の即決商材化 |
給湯・電化 | 比較的高い | 配管・電線・接着剤 | 強い(給湯省エネ) | 主力:副資材確保が前提 |
トイレ | 高い(一部影響) | 塩ビ管・接着剤・衛生器具 | 一部 | 回転商材:副資材在庫を事前確認 |
内装 | 高い | 接着剤・養生材 | 弱い | 付帯:セット販売 |
外装メンテ | やや不安定 | 塗料・シンナー本体も逼迫 | 限定的 | 収益確保:原価連動型価格+説明強化 |
浴室 | 低い(メーカー差あり) | 配管・シーリング材 | 一部 | 制約領域:分割・待ち案件化 |
断熱 | 低い(調整継続) | 接着剤・気密テープ | 強い(みらいエコ住宅) | 制約領域:部分施工・代替提案 |
重要なのは2つ。第一に、制約領域を「売らない」のではなく「売り方を変える」こと——浴室や断熱は、「一括契約で全工程を組む」から「フェーズ分割提案+納期リスクの明示+代替提案」へ。これは顧客保護であり、同時に自社の粗利防衛でもある。第二に、「主力」と分類した領域でも、副資材の在庫・納期を現場単位で確認してから見積・契約を出す運用を標準化すること。仕入先と副資材のチェックリストを共有し、発注タイミングを意図的に前倒しする。2026年春の教訓は、「主力・制約」の2分類だけでは現場を守れない、というものだ。
示唆2:補助金設計を営業プロセスに組み込む。 2026年度の住宅省エネ2026キャンペーンは、先進的窓リノベ2026事業・みらいエコ住宅2026事業・給湯省エネ2026事業・賃貸集合給湯省エネ2026事業の4事業連携で、最大200万円/戸の併用設計が可能だ。2025年度が予算上限で早期終了した事実を踏まえると、2026年度も後半には予算枠が逼迫する可能性が高い。補助金の知識を営業担当者個人のスキルに依存させず、提案書テンプレ・顧客説明フローに標準化して組み込めるかどうかで、年度内の受注単価が変わる。これは直近の年度予算の取り込みの話であり、今年を逃すと来年以降は補助単価が下がる確度が高い。
【中期】2027〜2030年の戦略
示唆3:都市と地方で、戦略の重心を分ける。 構造として違う市場には、違う処方箋が要る。
都市部は、中〜大規模案件の分割提案を軸に据える。築30年超ストックの蓄積、若年層の中古購入+リノベ需要、借入と補助金を併用できる層の厚みを前提に、フルリフォームを複数フェーズに分解する。供給が安定している窓・給湯・トイレ・内装を先行、浴室・断熱を後続する設計が機能する。都市部では「単価を守って、分割で売る」。
地方は、「補助金×電化×定期接点」の三本柱で、薄く長く取る。大型投資層の絶対数は薄いが、一人当たり支出は全国上位、築年数の進んだ戸建て持ち家が厚く、電化親和性が高い。補助金(とくに先進的窓リノベ2026、給湯省エネ2026)で顧客の実質負担を下げ、電化・窓・トイレ・外装メンテといった供給確度の高い領域で定期的な接点を持ち、顧客ライフタイムバリューで回収する。浴室・断熱などの大型案件は"待ち案件"として保持し、供給正常化のタイミングで刈り取る。地方では「単価より回数、そして継続」。
この違いを曖昧にしたまま同じ商品・同じ売り方で両市場に臨むと、都市では単価を失い、地方では回数を失う。
示唆4:「一時的な波を乗り切る」ではなく「構造変化後の立ち位置を先に決める」。 今回の局面は、1〜2年の特殊事態ではなく、それ以前から進んでいた構造変化(金利上昇、住宅市場縮小、toB流出、事業者淘汰、補助金縮小)が、中東要因を触媒にして表面化したものだ。中東情勢がどのシナリオで着地しても、戻る地点は2024年ではなく、もう一段先の新しい均衡点になる。
この均衡点で自社がどの位置にいたいかを先に決める。具体的には以下の4点だ。
第一に、仕入先との関係を、価格交渉の場ではなく情報連携の場にする。アロケーション時代のメーカーは、長期関係のある相手に優先して配分する。2026年内にメーカー・問屋と週次の情報交換体制を築いた事業者は、次の危機で生存確率が上がる。
第二に、見積と契約の形式を"原価連動+スライド条項"を標準に切り替える。資材価格が月次で動く環境では、固定見積は粗利を自滅させる。契約書ひな形の更新は、法務コストではなく経営投資である。
第三に、補助金設計を営業の属人スキルから組織能力へ昇格させる。補助金の知識・申請実務を複数担当者が共有し、顧客への説明ツールとして標準化する。2026年度の4事業連携は、この組織化の第一歩として使える。
第四に、素材戦略を「調達リスク」で再設計する。今回の局面で可視化されたのは、ナフサ由来資材(塗料・断熱材・塩ビ・接着剤・樹脂サッシ内部部材等)の中東依存だけではない。アルミも日本は中東から約59万トン・総供給の約30%を輸入しており(日本アルミニウム協会、2025年)、LIXIL・YKK APの窓サッシも4〜5月受注分から値上げが進んでいる。中国のアルミ生産上限(年4,500万トン)への到達と相まって、アルミ価格はLME 3,000ドル台での高値定着が予測されている。これは素材カテゴリをまたぐ構造的な供給リスクで、特定原料の代替だけでは解決しない。自社の受注案件ごとに「どの素材がどこに依存しているか」を棚卸しし、代替素材の選択肢(断熱材ならセルロースファイバー・ロックウール・羊毛系、サッシなら樹脂サッシ等)を平時から手元に持っておく。これらは平時には差にならないが、次の供給危機で大きな差となる。
補助金の年度枠は2026年12月で一度区切られる。中東情勢は数か月単位で局面が変わる。「様子を見る」という選択肢は、実際には存在しない。動かないことのコストは、毎月の案件単位で発生している。2026年の残り8か月をどう使うか——一時的な波をやりすごしつつ、構造変化後の立ち位置を先に押さえる。その両方が、2030年の競争力を決める。
<参考文献>
JETRO「中東リスクと物流(2)日本と中東の貿易とホルムズ海峡封鎖の影響」(2026年4月14日)
資源エネルギー庁「中東情勢を踏まえた石油及び関連製品等に関する対応」公表資料
経済産業省「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保」(2026年3月24日・3月25日・4月6日 資料)
経済産業省「赤澤経済産業大臣の閣議後記者会見」(2026年4月3日)——中東情勢に伴う重要物資の安定的な供給確保のためのタスクフォース第1回開催
内閣府「サプライチェーン強靱化の取組(重要物資の安定的な供給の確保に関する制度)」——経済安全保障推進法の特定重要物資指定
Bloomberg「原油タンカーがホルムズ海峡へ動き出す」(2026年4月17日)、「原油とガス急伸、ホルムズ海峡巡り緊張高まる」(2026年4月20日)
三井住友DSアセットマネジメント「ホルムズ海峡の運航状況と原油相場と日本株」(2026年4月9日)
建設物価調査会「建設資材物価指数(2026年3月分)」「建築費指数(2026年3月分)」
経済調査会「リフォーム工事費指数」(2025年実績154.6、2009年=100)
TOTO株式会社「【第3信】中東地域の情勢悪化に伴う製品供給への影響について」(2026年4月15日)
LIXIL「中東情勢の緊迫化に伴う製品供給への影響について」(2026年4月10日)
旭化成建材「ネオマフォーム等の供給への影響」(2026年3月31日発表)、「特別調整金」(2026年4月14日発表)
信越化学工業「塩化ビニル樹脂の値上げについて」(2026年3月16日発表、4月1日納入分から+30円/kg以上)、「再値上げ」(2026年4月20日発表、5月11日納入分から+30円/kg以上)、シリコーン製品の値上げ発表(2026年4月)
日本経済新聞「信越化学が塩ビ樹脂を2割値上げ、減産」(2026年3月16日)、「信越化学、塩ビを2度目の値上げ 中東情勢影響続く」(2026年4月20日)
新建ハウジング「【値上げ一覧】"ナフサショック"で相次ぐ大幅値上げ」「TOTO、システムバスの新規受注を段階的に再開へ」各記事
リフォーム産業新聞「LIXIL、中東情勢に伴う供給条件調整の可能性について発表」「旭化成建材、ネオマフォームなどの商品に約20%の特別調整金」
矢野経済研究所「住宅リフォーム市場に関する調査を実施(2025年)」——2024年7兆3,470億円、2025年予測7.3兆円
住宅リフォーム推進協議会「2024年度 住宅リフォームに関する消費者(検討者・実施者)実態調査」(令和7年2月公表)
公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住宅リフォームの市場規模(都道府県別)」
総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」——持ち家率60.9%、空き家率13.8%
国土交通省「令和7年度住宅経済関連データ」、「新設住宅着工戸数」(2025年74万667戸)
住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査」(2026年1月調査)、「"金利のある世界"でどう変わる?」
経済産業省・環境省・国土交通省「住宅省エネ2026キャンペーン」(先進的窓リノベ2026事業、みらいエコ住宅2026事業、給湯省エネ2026事業)
日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査」(2025年8月)
東京商工リサーチ「2025年度の塗装工事業の倒産件数」「建設業の倒産件数」
帝国データバンク「価格転嫁率の分析」
三菱UFJ銀行「ホルムズ海峡の事実上封鎖と世界経済への影響」(2026年4月3日)
Bloomberg「中東混乱によるアルミ不足が日本直撃、基幹産業の自動車もピンチに」(2026年4月20日)——日本のアルミ中東依存30%
住友商事グローバルリサーチ「アルミ(2026年3-4月)新たな供給ショック」——湾岸製錬所被災、日本向けプレミアム前期比8割高
丸紅「ホルムズ海峡をめぐる混乱は、原油・LNGのみならず石化製品・肥料・アルミ等への広範な供給リスク」(2026年3月24日)
日本アルミニウム協会統計(2025年 中東からの輸入量約59万トン)
田島ルーフィング「新規受注停止のお知らせ」(2026年4月10日、全製品の新規受注停止)、「防水関連材料 一部製品 受注一時停止のお知らせ」(2026年4月9日)ほか一連のお知らせ
毎日新聞「『令和のオイルショック』建設工事停止も 資材メーカー受注停止」(2026年4月21日)
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